響きあうもの

こころと魂に響いてくるものやことなど

レビュー「残酷な神が支配する」

前回書いた「生かす力」「殺す力」に通じるものがあるかなと思い、

以前書いたレビューを再掲しようと思う。

この作品は「家族」「人間関係」というものが

「殺す力」を持ってしまった世界を描いている。

人には様々な「力」があるが

その「力」を生かす方法を覚える機会がなかったら

「生かす力」は身につかないのではないかと思う・・

最も身近な存在に「殺す力」を行使され続けていたら

「生かす力」を覚えることは出来ず

もしくは

「殺す力」が「生かす力」を上回たまま

そのまま生きていくことになる…

自分と、そして世界とを壊しながら。

けれど、人との関係と人にはまた

「生かす力」も紛れもなく

あるのだ。

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萩尾望都さんという漫画家さんがいます。

かつて私が漫画家を目指すきっかけとなった方で

もうマンガの枠を超えた領域で

作品を生み出し活躍されている方。

その萩尾さんが描かれ1997年に

「第1回手塚治虫文化賞優秀賞手塚治漫画賞を受賞した

性的虐待を扱った『残酷な神が支配する』を

数年ぶりに読みなおしました。

す…素晴らしかった… 

しかしこれは…とてつもなく「痛い」…物語だ。 

よくぞここまで人の「こころの闇の迷宮」に踏み込み 

迷うことなく…描き尽くされました…というのが

私が感じた一番の感想だ。 

この作品の凄さについては…私自身が 

まがりなりにも何千という人の「こころ」と

向き合ってきたからこそ…

なをさらにわかるように思う。 

実を言えばこの作品の連載当時の自分は、

私自身が生身でここで描かれている

残酷な神が支配する」現場にいた。

(性的虐待という意味ではないけれど) 

けれどこの連載が進行するころ… 

私もこの物語に登場するイアンやジェルミと同じように… 

とんでもない「自分と他人の心の迷宮」の中で 

何度も道を見失いながら歩くような体験をすることとなった。 

イアンのように何度も道に迷い 

ジェルミのように何度も混乱しパニックし、 

そして吐くほどに苦しみながら… 

ひたすら自分と他者の「心の迷宮」を歩き抜いて…

その先に…いまの「わたし」はいる。 

この作品は恐ろしいほどにリアルに…そして厳しく、

人の本質的に内在させているところから発動する 

「痛み」を突き付けてくる。それはそれは容赦なく。

でも今の私ならばわかるが

この徹底的なリアルな「痛み」の再現(通過)以外に 

そこから真に抜け出すことはできない…。 

だからこそ人は迷宮の中で何度も迷い、 

途中で脱落する人々も何人も出てくる。 

(けれどそれに向き合えば…変容する可能性があるのだが) 

この作品の中にはカウンセラーとして登場する人物もいるが

その彼女すら「こころの闇の迷宮」の迷路にはまり込んでしまう。 

(とはいえ、それでも彼女の存在にはとても意味があるのだけど) 

曲がりなりにもカウンセラーのプロならば、

絶対にしないようなことを…彼女はしてしまう。

でもその落とし穴こそ、とてもリアルであり

人間ならいつでもしてしまいかねない…ことなのだ。

この物語の中での「残酷な神」とは「親(的存在)」のことだ。

子にとって親は神にも等しい存在である時期がある。

その神がもしも残酷な存在だったら…?

しかし、その残酷さは巧妙に隠され、秘されている。

そうして水面下でその残酷な神の支配は続いてしまう。

だが、実際には「親(的存在)」にとどまらず…

自分にとって都合の悪いことは全て見て見ぬふりをする…

無かったことにするような人の「弱さの持つ残酷さ」をも

表しているように思う。

結局、その「残酷な神」から虐待を受け続けたジェルミを再生へと引き上げたのは

そのジェルミの痛みと「徹底的に向き合う覚悟」を決め、同時に

己の中の「弱さゆえの残酷さ」と、とことん向き合った義理の兄イアンと、

ジェルミを取り巻く…様々に「迷宮」を彷徨いながら必死で生きていた仲間たちだった。 

イアンはでも、何度も迷宮の中で道に迷い、逃げだそうとし

失敗し、立ち止り、でもまた再び迷宮に入り……

何度もジェルミと共に「エッジ」から落ちそうになりながら

何度も迷宮の森で道を見失いながら 

大抵の人間が陥っていく「偽りの道」に迷い込みそうになりながら… 

何度も何度もなんどもなんども、イアンはやり直す。 

イアンを何度も「迷宮」に向かわせたのは

彼の中にあった「真実のカケラ」だ。

イアンが迷宮を歩きとおせたのは

その「真実のカケラ」を使ったから…

どんなに道に迷い、どんなに困惑し 

他の何かとまぎれ込んだとしても

「真実のカケラ」は行く手を照らし出し

ただ一瞬であってもそれは必ず相手に届くのだと… 

この作品は示してくれる。

そうしてやっとジェルミは、

そのイアンとの気の遠くなるようなやり取りの果てに 

「真実のカケラ」を自分の中にも見つけ始め、

再生への道筋をやっと見出して歩きだす。 

人はひとりでは生きていけない。 

ジェルミが義父によって木端微塵にされたように… 

人はひとと関わりあう中で…バラバラに散った

かけらが繋ぎあわされていく… 

それは作者自身の祈りかもしれない…と思う。 

でも、その見解は私のそれと合う。 

わたしも確かに…そう「感じている」からだ。 

これは人が生きていく限り、そんなシーンにも当てはまる。

迷宮は存在する。けれどただ迷うだけではない。 

どんなに過酷であっても… 

生き延びろ… 

生き続けろ… 

そう、この作品は囁く。

たとえ微かであっても紛れもなく神は 

ひとりひとりのハートに迷宮を抜ける「地図(真実のカケラ)」を 

与えてくれているのだから… 

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(改行が全然反映されてないのはなぜだ。。。)

生かす力、殺す力…

このテーマについては、もう少し書いてみたい…